いぬの看板

あの町角を曲がれば

いぬの看板<特別編・その9>

<特別編・その9/エピローグ>

 

N暗K太・著『ある探訪記のための習作』の文章はこれですべて公開し終えた。

子育てや帰省といった日常生活の風景に「犬の看板探し」という一見特異にも映る行為が、これほどまでに自然な形で組み込まれている様に感動を覚える。

「犬の看板探し」はもちろん一人でもできるが、ゲーム性を付与することも可能なので、何人かでやってみるのもいいだろう。

私はN暗K太氏を含めて色々な人と「犬の看板探し」を試みたが、一様にそのパートナーの方が私以上に熱くなり、夢中になるというケースばかりだった。

「何かを探す」という行動にはシンプルなロマンがあるし、「何かを見つける」という発見には常にみずみずしい喜びがある。

日常の中にその非日常的行為を取り入れることによって、今まで何気なく通って来たなじみの道も違うように見えてくるはずだ。

 

「ああ、日本のどこかに、私を待っている犬がいる」

 

<特別編>はこれにて終了。

次回からはまた市区町村名を添えた犬の看板画像だけをアップしていきます。

 

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いぬの看板<特別編・その8>

<特別編・その8>

(N暗K太・著/『ある探訪記のための習作』より)

 

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あとがき

 

実家には一週間ほど滞在した。

滞在中は、犬の看板探訪の他に父が育てている菊の苗をハウスから畑へ移動する植え替え作業を手伝った。その間、子供たちは土いじりや水遊びを楽しんだ。畑仕事の道具や機械、特にトラクターは座席の取り合いになるほど夢中になっていた。

県が紹介する福島市内の子供の遊び場もいくつか訪れた。新幹線に乗り、大好きな車での移動(僕は車を持っていない)、おじいちゃんと走って競争したり、おばあちゃんに絵本を読んでもらったり、普段とは違った世界で楽しそうな子供たちの表情を見て、ゴールデンウィーク前日に帰省を即断した事が良き判断だったことを思った。

いきなりで申し訳なかったが妻には育児から離れ一人になる時間を持たせることができた。犬看板については、少ない時間で効率良く回収する事が出来た。

福島県内は面積が広く市町村間を移動するのも大変だ。限られた時間の中では実家を拠点にして収集をする範囲は限界だと思った。県内の市町村すべての犬看板を回収するには、そのためだけの時間を確保して探訪すべきだと思った。

本宮市浪江町の犬看板に遭遇した時は驚いた。汚れもなくとても新しい看板に見えたが、よく見ると下側に陥没した箇所が何点か確認できた。留め金か何かで看板を挟んでいたのかではないかと推察すると、看板の立て方を変えたか、或いは何処かに括りつけられていた看板を移動して持ってきたか。

2019年5月末現在も浪江町の一部は帰宅困難区域に指定されている。

今回の帰省は、僕が当初イメージしたいくつかの思惑を十二分に達成できた時間になった。そして結局ビールを控える事が出来なかった事をここに記す。

 

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(N暗K太・イラスト)

 

<特別編・その9>へ続く

いぬの看板<特別編・その7>

<特別編・その7>

(N暗K太・著/『ある探訪記のための習作』より)

 

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探訪記5

 

【探訪日】2019年5月1日

【市町村】福島県大玉村


村のキャッチコピーは「小さくても輝く 大いなる田舎 大玉村」である。

大玉村に何かある?と聞かれたら、答えは「PLANT-5」一択だ。ここは食材や衣服などあらゆる日用品が揃う大型スーパーである。売り場の面積だけで5,000坪を超え、建物は平屋で二階がないのが特徴だ。端から端まで歩くとちょっとした運動になる。

僕はずっとパチンコ屋みたいな名前だなと思っていた。ペルーにあるマチュピチュ村の初代村長・野内与吉は大玉村出身である。村内に野内与吉資料展示室がありマチュピチュ村の歴史と大玉村との関わり合いを知ることができる。

さて、SKPからの帰り道。行きとは別ルートの山道から大玉村中心地を経由して福島市へ帰る。大玉村役場を目指す道中、農業用水路の道端で犬看板を発見。(写真10国見町本宮市と同じ犬のイラストだ。色が褪せて照れ臭さが無くなり、申し訳なさが伝わってくる。

年月を重ねると犬看板の印象が変化するのも面白い。

 

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(写真10)

 

<特別編・その8>へ続く

いぬの看板<特別編・その6>

<特別編・その6>

(N暗K太・著/『ある探訪記のための習作』より)

 

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探訪記4

 

【探訪日】2019年5月1日

【市町村】福島県本宮市

【施設名】スマイルキッズパーク(愛称:プリンス・ウィリアムズ・パーク)

 

本宮市に向かう車内で母は「本宮市は、最近若者が多いんだって」と呟いた。この探訪記を書くにあたって本宮市について調べると2009年から住みやすさ県内No.1を10年間維持している事が分かった。(※3)

市のホームページは写真も伝わりやすいものを選んでいて、どのページに飛んでも簡潔で分かりやすい作りになっている。今風だ。今回僕が訪れたスマイルキッズパークはトップページに掲載されており、すぐに市のアピールポイントなのが分かる。

SKP屋内砂場で使用される「ダンシングサンド」は砂の粒子が細かくしっとりしているため固まりになり易い。感触は砂に近いが質は粘土に近い。屋内施設と屋外の公園を行き来するトンネルの入口には大木のオブジェがあり内部は洞窟さながら。探検している気持ちになる。

福島市からは国道4号線を南下する。二本松市大玉村を過ぎ本宮市街地に入ると所々で犬看板を見ること出来た。イラストは全て国見町でも見られた照れ顔の犬だ。(写真8)

SKPへと続く一本道の道中、白沢グリーンパークという野球場の入口付近で思わぬ犬看板と遭遇した。福島県浪江町の犬看板だ。(写真9)ミッキーマウスを連想させるその風貌は、アジアなどで見る偽物感はなく、目も正常でハニカミにも偽りはない。これはオリジナルだろう。

 

※3 住みよさランキングは、東洋経済新報社が公的統計を基にそれぞれの市区が持つ“都市力”を、「安心度」「利便度」「快適度」「富裕度」「住居水準充実度」の5つのカテゴリーに分類し、ランク付けしたものだ

 

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(写真8)

 

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(写真9)

 

<特別編・その7>へ続く

いぬの看板<特別編・その5>

<特別編・その5>

(N暗K太・著/『ある探訪記のための習作』より)

 

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探訪記3

【探訪日】2019年4月30日

【市町村】福島県国見町

 

国見町は、福島県の最北端にあり、宮城県との県境にある町だ。イコーゼ!から車で国道4号線を10分ほど北上したところで国見町のマスコットキャラ・くにみももたんが「国見町へようこそ」と歓迎してくれた。

JR藤田駅を目標にしながら車を走らせる。坂道が続く沿道に菜の花の群生がある。強い風が吹いた。群生が途切れた場所に照れ顔の犬看板を発見。(写真6)よく見るフリソ系の看板だ。

坂道を登り切ると宮崎駿監督作品・もののけ姫に出てくるシシ神様風の犬看板を発見。(写真7)此方もよく見るフリソ系だが得体の知れなさ感が目を惹く。住民が寝静まった頃に看板を抜け出し、半透明の巨大なデイダラボッチの姿に変態し町を歩く様を空想する。

桑折町の犬看板回収と合わせてここまで30分弱か。宮城県白石市まで足を伸ばそうと考えたが目的は達したので無理せず子供達の待つイコーゼ!に戻った。

 

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(写真6)

 

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(写真7)

 

<特別編・その6>へ続く

いぬの看板<特別編・その4>

<特別編・その4>

(N暗K太・著/『ある探訪記のための習作』より)

 

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探訪記2

 

【探訪日】2019年4月30日

【市町村】福島県桑折町

【施設名】屋内温水プール・多目的スタジオ・イコーゼ!

 

桑折町は、伊達市より北西側に位置する。桑を折る町と書いて「こおりまち」と読む。桑折町と言えば天皇への献上品として県内外で広く知られている桃が特産品である。

伊達市から国道4号線を北上するといきなり江戸時代へタイムスリップした気分にさせられた。天守閣へと続く門かと見紛うほど堂々とした風格を放つ地下歩道入口の前でフリソ系の看板を発見したが国道の十字路なので交通量もあり駐車し辛い。場所は把握した。帰りに写真に収めれば良いと判断、イコーゼ!を目指す、たのもー。

イコーゼ!は玉入れや数字が書かれたマスにボールを蹴り込む遊具、バスケットゴールやドッヂボールなど、ボール遊びの種類が豊富だ。プールが併設され周囲には公園やテニスコートもあり老若男女が汗を流す姿がある。

ここで次男が昼寝を始め僕は心の中でガッツポーズ。長男は一人で遊んでいられるので父母に預けるのも気が楽だ。周辺を散策する。公園の歩道に等間隔で並べられた犬看板を発見パシャり。(写真4)

車に乗り込み十字路へ戻る。七色の虹をバックに樽腹の犬自身が看板に前足を掛け警告するイラストだ。(写真5)

雨が上がり雲の切れ間から太陽が差し込む。吾妻連峰の前には本物の虹がうっすらとかかり次第に虹の色が濃くなる。目を看板に戻すと二つの虹が交錯し一瞬どちらが本物かわからなくなった。

無意識にお腹周りをさすっている自分に気づき今晩はビールを控えようかと深刻に悩む。効率良く回収出来たら範囲を広げる予定だったので再び車に乗り込みさらに北へ、国見町を目指す。

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(写真4)

 

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(写真5)

 

<特別編・その5>へ続く

 

いぬの看板<特別編・その3>

<特別編・その3>

(N暗K太・著/『ある探訪記のための習作』より)

 

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探訪記1

 

【探訪日】 2019年4月30日

【市町村】 福島県伊達市

【施設名】 ファミリーパーク伊達

 

伊達市は、東に霊山、西に吾妻連峰、北に宮城県境の山々に囲まれた福島盆地にある。高校野球の強豪、聖光学院は全国区だ。

福島市にある実家からは、南は東京〜北は青森まで続く国道4号線を北上する。施設へ向かう道中全く犬看板が見当たらない。

FP伊達は、屋内に3階建てのお城、滑り台、クッション性の大型積木ブロック、クライミング、ボールプール、三輪車サーキットや屋内砂場、さらにママカフェと呼ばれる交流スペースは十分な広さが確保されている。スタッフの数も揃っている。都内でこの規模の施設を利用すると有料だろう。

子供たちが施設の雰囲気に慣れた頃に父母に散歩してくると告げ外に出た。Googleマップで位置を確認し、住宅街や公園、学校などの公共施設を通るルートを探る。それらの近くは回収率が高い。人が居ない場所には警告や注意は不必要だろう。

FP伊達から円を描くように移動すると決めた。しばらく歩くと古屋の多い住宅街に入りゴミ集積所の囲いフェンスに括り付けられた伊達市の犬看板を発見した。健康的なうんちをしたあと爽やかに振り向く犬のイラスト。(写真1)王道の可愛さだ。紙に印刷後ラミネートが施されている。これはオリジナルかフリソ系か。(※2)

その後、伊達小学校、JR伊達駅を通りFP伊達に戻った。道中フリソ系の看板を何枚か回収した。(写真2、3)昨晩から降り続いていた雨は弱まり霧状に変わった。

 

※2 フリソ系の意味はフリー素材で作成された看板の事で、オリジナル系は文字通り原板(太田氏による呼称)

 

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(写真1)

 

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(写真2) 

 

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(写真3)

 

<特別編・その4>へ続く

いぬの看板<特別編・その2>

<特別編・その2>

(N暗K太・著/『ある探訪記のための習作』より)

 

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まえがき

 

今年(2019年)のゴールデンウィークは、天皇の退位と即位により10日間の超大型連休になった。

長男の幼稚園入園で出費がかさんでいたためGWは生活の足しになればと日雇いの仕事をする予定だった。友人からタイル張りの仕事を貰っていたがGW直前に工事スケジュールが変更、人手が充足したと断りの連絡を受けた。

不意に中島みゆきの「ホームにて」を思い出した。「ふるさとへ向かう最終列車に乗れる人は急ぎなさい」この歌は結局電車に乗らなかった人の歌だが、僕はこんな時は実家に帰るべきだと清々しく思った。

子供たちに普段と違う刺激を与えたい、父母に孫の顔を見せられる、長男が入園してから明らかに子育てのギアを一つ上げ頑張っていた妻の休養、そして僕自身は実家周辺の犬の看板を写真に収める楽しみがある。

いくつかの思惑が瞬時に頭に浮かびGWを実家の福島で過ごすイメージが色づいた。今回の帰省は思惑の一つである妻の休養の為に僕一人で長男と次男を連れて帰った。

 

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犬の看板と福島

 

犬の看板とは、犬のフンの後始末を注意する看板のことだ。(以降、犬看板と呼ぶ)

僕が福島県の犬看板を収集する理由は、先輩で友人でもある太田氏から福島県内の市町村の犬看板とフレコンバックを交互に組み合わせた写真の構想を聞いたからだ。

同氏とは震災以後から福島県内を巡る旅を続けている。2016812日に南相馬市復興支援ツアーで市内のある神社を訪れた際に同氏が犬のイラストに南相馬市と書かれた看板に反応した。「汚染土は持ち出せないのに、犬のフンは持ち帰る皮肉」と同氏はその場で口にした。

後日、日帰り温泉施設の早朝風呂でその構想を聞いた時、アイデアの面白さと分かりやすさから瞬時に僕は唸った。アイデアの終着地は未だ不明だが何か面白い事が待っているかも知れないと感じ協力する気持ちでいる。

福島以外でも旅先で犬看板を見つけると太田氏へ写真を送っている。そもそも犬看板のイラストには目を奪われる引力がある。僕自身は猫派だが犬のイラストを見るのは好きだ。どの犬のイラストもついつい語ってしまう愛おしさがあるし、大袈裟に言って一枚もハズレがない。

太田氏が開設した犬看板だけを定期的にアップしているブログ(※1)があるので様々な犬たちの表情や佇まいを覗いて欲しい。 

1 いぬの看板ブログ http://jet-shirei.hatenadiary.jp

 

子供への刺激、父母と孫の触れ合い。この二点の思惑を叶え犬看板を回収できる妙案は、県内の子供の遊び場を軸に周辺の犬看板を回収することだと考えた。

移動時間に配慮する。4歳と2歳の子供と父母の負担を考え、車で1時間以内の場所をネット検索、なるべく出費がかからない公園や公共施設を探す。

探し出すと多くの施設がヒットした。福島県のホームページには無料で遊べる県内の屋内施設一覧なるページがありその施設の多さに驚ろかされる。

震災直後、原発事故の影響で子供たちが屋外での活動を制限された時期に福島県内では市町村や民間団体が既存の公共施設や商業施設の中、学校の旧体育館などに子供の遊び場を整備した。

公務員で一時期私立の幼稚園の園長だった父から震災後に県内で一番早く整備された郡山市ヨークベニマルを見学に行った話を聞いた事がある。その後も都内では有料になるような充実した設備の子供の遊び場が新たに作られた。

今回は僕が訪れた市町村と子供が無料で遊べる施設の紹介を交えながら犬の看板探訪を記していく。

 

<特別編・その3>へ続く

いぬの看板<特別編・その1>

<特別編・その1/プロローグ>

 

某日、私のところに郵便物が届いた。中には一冊の小冊子だけが入っていて、その表紙にはこうあった。

 

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不可解に思いながらも表紙をめくった。

 

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瞬時に理解した。これは、私が『生活考察』Vol.06に寄稿したエッセイ【「犬の看板」探訪記<茨城犬篇>】を叩き台にして作られた独自の報告書であると。

奥付には「N暗K太」(※個人情報保護のため一部イニシャルに変更)と署名があり、はたして参考文献に私のエッセイのタイトルが記されている。

興奮した私は『ある探訪記のための習作』を急ぎ一読した。

驚愕した。

この「N暗K太」氏は、私が提案した犬の看板探しという行為をただなぞっているだけではなく、その根底にある「犬の看板探しスピリット」としか呼べないような志をしっかりと持って探訪を実践しているのである。

この報告書は十二分に発表に値すると思った。

そのため、基本的には市区町村名を添えた看板画像だけをあげている当ブログではあるが、それを一度中断し、何回かに渡り「N暗K太」氏の報告を<特別編>と題してアップしていくことにする。

 

<特別編・その2>へ続く