東京都文京区(5匹目)
東京都文京区(5匹目)
いぬの看板<特別編・その29/エピローグ>
数回にわけてアップしてきたN暗K太氏の『犬のかんヴぁん』 Voyage of my dog sign ~埼玉県東部地域編~がこれですべて終了した。
三度目の彼からの報告だったのだが、それぞれパターンが異なるうえ、初めて見る「犬の看板」もあって、私にとっても非常に新鮮で驚きに満ちた体験だった。
街中をふらついて「犬の看板」を探していると、自分が一体何をしているのか意味がわからなくなる瞬間にたびたび襲われる。数時間歩き回っても見つからない時はなおさらだ。
(ちなみに、行田市と熊谷市はどちらも三時間ほど歩いたが、一枚も見つけることができなかった経験がある)
そんな風に自分の行動に懐疑的になりつつも、どうにか歩みを進めていけば、新しい「犬の看板」と出会えるかもしれないし、実際に「犬の看板」に出会えると、そのモヤモヤは一気に払拭され、カタルシスが訪れる。
ああ、ここまで来て本当によかった。
その感慨は人生を肯定する感覚と酷似している。それは自分自身に無理矢理言い聞かせて手に入れたものではない。「犬の看板」という外部の事物によってもたらされる、力みのない明るさをともなう知覚だ。
資本主義を軸にした世界では楽しみを得るためには相手に金銭を渡すのが筋だろう。おいしい食事や娯楽を享受したいと望む時、私はいつも財布の中のお金のことを気にかけている。
でも「犬の看板」を探している時、私は財布のことをすっかり忘れている。日常の先にある非日常の中でたしかに自由になっているのだ。
生まれてからこのかた、何一つ良いことはなかった。泥水だけをすすって生活を重ねた私の人生の中で、これほどはっきりと輝く希望は他にない。
ああ、日本のどこかに私を待っている犬がいる。
その想いだけで今日も私は生きていける。
というわけで、今回の特別編もこれにて終了。
次回からはまた市区町村名だけを添えた犬の看板画像をアップしていきます。
いぬの看板<特別編・その28>
(N暗K太・著『犬のかんヴぁん』 Voyage of my dog sign ~埼玉県東部地域編~より)
■エピローグ
「今日は観光ですか?」
朝の受付時に、利用票の目的欄に記入をし忘れていたようだ。
「観光というか、まぁ…」
「市内ですか?」
「白岡市とその周りを…」
「寺院とか?」
「犬…犬の看板を写真に…犬のフンを持ち帰りましょうって看板を集めていまして…」
係の男性は感心したように頷いた。「そういうお仕事で?」
仕事ですと言いかけて「趣味です」と正直に答えた。
「マンホールとか集めている人居ますよね」
その察しのよさに気を許し、今日一日の記録にまとめること、その記録を友人に送る遊びをしていること、全てを正直に伝えた。係の男性は、また感心したように何度も頷きながら、代わりにペンを持って目的欄に記載してくれた。
今回の探訪では、多くの公園を巡ったことが、自身のライフスタイルにとって収穫だ。ここは水遊びが禁止されておらず水が流れているな、ここは船型遊具があり楽しそうだな、BBQ場と遊び場が近くていいな、次は子供たちを連れてそれぞれの公園を訪れたいと思った。
犬看板は、予定した市町村全て+αで写真に収めることができた。ポケット旅行記の移動履歴を眺める。一本隣の道を走っていたら、別な犬看板たちに出会えたのだろうか。移動距離は、約70.1キロ。
さぁ、明日は仕事だ。日常に戻ろう。
■ポケット旅行記
公開URL https://travelboard.sakura.ne.jp/map.php?id=22596
■オリジナル犬看板
今回訪れた市町村の中から、オリジナル犬看板を描いてみようと考えていた。どこが良いか思案して、伊奈町と決めた。最後は、イラストでお別れしたい。
いぬの看板<特別編・その29/エピローグ>に続く
いぬの看板<特別編・その27>
(N暗K太・著『犬のかんヴぁん』 Voyage of my dog sign ~埼玉県東部地域編~より)
■五霞町
幸手市を北上中に、予定にはなかった五霞町まで足をのばせるのではないか、そこからさらに栗橋町までまわって来れるのではないかと考えた。幸手市を縦に走破し、幸手市最北の県営権現堂公園幸手権現堂桜堤(4号公園)まで来た。
五霞町は、川を越えた先だ。橋の上に茨城県の標識。そして県を越えた瞬間、遠くまで来たと、しみじみとした気持ちになり、同時に疲労がドッとおそってきた。
【五霞犬】は、前回の探訪、弥彦線・越後線編で、弥彦村にて見つけた犬看板と同じイラストだった。午前中に白岡市でも弥彦村と同じ犬看板を見つけたが、遠く離れた市区町村で、共通の犬看板を使用しているのは興味深い。
■久喜市
Googleマップ上では栗橋町と表示があるものの、久喜市突入を告げる標識を目の前に違和感を感じる。その場で栗橋町について調べると、2010年3月に久喜市と合併しているではないか。冷静になって思い返すと、探訪プランを練った夜、幸手市の隣は久喜市のみだったはず。
久喜市は面積も他の市町村に比べ大きく、久喜市よりさらに北に位置する加須市までは、今回の旅では届かないと判断していた。ここに来るまでマップを確認する度に、栗橋町の文字が頭に刷り込まれ、今はなき幻の町を目的地にセットしていたようだ。
疲れもピークを超え、地図を正確に見る余力も残っていなかったということか。まだ行けるまだ行けると欲をかき、時間の許す限り、犬看板目指して猪突猛進していた。気づけば県営権現堂公園多目的運動広場(1号公園)まで来ていた。
【権現堂犬】を見て、犬看板の替え時は、いつなんだろうと思う。巷には文字が剥げたり褪せたりして読めないもの、すべての色が抜け落ちてまっさらな看板もある。本来持つ看板としての意味を成してはいない。でもそこに犬が居れば、僕らは見つけてあげられる。
さて、白岡市に戻ろう。自転車の返却は十七時まで。残り二時間を切っていた。白岡市観光協会までの所要時間を調べると、車で40分表示。
園内のトイレで顔を洗い、ペットボトルのお茶を口いっぱいに含み、一気に飲み込んだ。ずっと漕ぎっぱなしだったので、お尻の痛みが増している。南下しながら、久喜犬を探そう。自転車を漕ぎ出す。帰り道だと思うと、急にペダルが軽く感じた。
日光街道・幸手宿を通る。風景を楽しむこともできる心境だ。青毛堀川沿いで【久喜犬】と遭遇、魂を抜き取られ、傀儡感のある、不気味犬だ。これでコンプリート。
いぬの看板<特別編・その28>に続く
いぬの看板<特別編・その26>
(N暗K太・著『犬のかんヴぁん』 Voyage of my dog sign ~埼玉県東部地域編~より)
■杉戸町
充電が残り5%を切った。旅の旅程を記録するポケット旅行記のアプリを起動している影響で減りも早い。モバイルバッテリーは故障中で持参していない。空腹感も限界を超えそうだ。
Googleマップを開き、次の目的地、幸手市方面でファーストフード店を検索。マクドナルドがヒットした。大落古利根川と並走する。犬看板の気配がないので一本中へ。
住宅街に入り【杉戸犬】と邂逅。ザ・オリジナル感に興奮。勇ましい。【幸手保健所管内狂犬病予防連絡協議会(2匹目)】の犬看板も発見。
電池が無くなる前にお店へ向かう。空腹で注意力が散漫になっている。幸手市の犬看板は後から探そう。風景にほとんど目もくれずマクドナルド4号線幸手店へ向かった。
■幸手市
最近、子供たちがハッピーセットを欲しがるのでマクドナルドを利用する機会が多い。コンセントのある席で、スマートフォンの充電も当たり前の感覚としてあり、申し訳なさもない。
ここまで順調過ぎるペースで来ている。休憩は一時間とっても問題ないだろう。しかし、なかなかバッテリーがたまらない。ポケット旅行記のアプリを終了し、スマートフォンの電源も落とした。結局一時間三十分程滞在し、バッテリーも90%表示を確認。体力も回復した。
幸手市は、今回の探訪で一番探したかもしれない。住宅がある道を小刻みに曲がり、確認する。気配はするのになかなかお目にかかれない。宮代町と杉戸町で幸手保健所の犬看板を見つけてはいたが、やはり幸手市のオリジナル犬を見てみたい。民家のコンクリート壁に、今にも消え入りそうな【幸手犬】を発見(冊子に印刷すると完全に消えている)。
このシルエットは、宮代町で見かけた犬と同じだろう。その後も、道をくねくねと進み探索するも、これ以上は見つからなかった。
いぬの看板<特別編・その27>に続く
いぬの看板<特別編・その25>
(N暗K太・著『犬のかんヴぁん』 Voyage of my dog sign ~埼玉県東部地域編~より)
■春日部市
犬看板に限っていう、ハズレの公園がある。ハズレの公園とは、犬の入場が禁止されている公園だ。
犬を入場させないことが前提であるため、犬のフンを持ち帰ろうなどの文句があるはずがない。それでも公園の周りにはあるかもしれないと信じて探すも、あるのは犬の散歩禁止と書かれた簡素な看板だけだ。ここに犬のイラスト一つでもあれば気分も違ったが、禁止の文字だけが強く心に残る。いたたまれない気持ちになり、そそくさと内牧公園を後にした。
最寄りの内牧小学校をぐるりと一周する。校庭では、縄跳びの練習をしている低学年と思われる子たち。若い男の先生が「長く続けるコツは、同じ場所で、同じテンポで飛ぶこと」と生徒たちに話していた。自転車を漕ぐことも同じだと思った。この若い先生の言葉を、足の疲れなどでペースが乱れた時に、何度も頭の中で思い出しては同じテンポで走ろうと心掛けた。
次は住宅街へ向かおう。信号待ちをしていると、道路を挟んだ住宅の塀にそれらしき看板。はやる気持ちを抑え、ペットボトルのお茶を一口飲んだ。隣の車道には同じく信号待ちをしている白のセルシオ。車内には煙草をポッポッポッと連続で吸い、オイシそうにくゆらせているヤンキーメン。
信号が青になる。男性が、先にどうぞ、と手を差し出してきた。イカつい風貌とのギャップにやられる。軽くお辞儀をかえす。看板に近づくと、ビンゴ!【春日部犬】だ、少年と丸太の上でスリリングな遊びに勤しんでいる。丸太のリアル感もグッド。
■宮代町
春日部市の犬看板をゲットした場所から、川を越えればすぐに宮代町だ。
公園・はらっぱーく宮代町へ来た。芝生が青い広々とした公園だ。シルバーの男女がゲートボールの試合をしている。自転車をとめ、眺める。「まっすぐ!まっすぐ!」「よっしゃぁー」「んっぐっあ〜」動きの少なさに反してだいぶ白熱しているようだ。スティックがボールを叩く音に心地よさを感じる。
ここでは、【埼玉県狂犬病予防協会】と【幸手保健所管内狂犬病予防連絡協議会】の犬看板を発見した。
杉戸町方面を目指しながら宮代町の犬看板を探す。宮代町郷土資料館の案内標識に反応した。
向かってみる。正面玄関前まで来たが、反射的に通り過ぎる。隣の百間小学校をぐるっとまわったのち、郷土資料館の裏手にある駐車場まで来た。閑散としていて、落ち着けそうだと思い、小休憩を取ることにした。
ここまでの旅程で、足に疲れが蓄積し、自転車を漕ぐスピードも落ちてきている自覚がある。足の感覚が「自転車を漕ぐ足」になっているので、一度降りて、リセットもしたい。
駐車場の奥は、公園のようだ。さらに奥に雑木林が見える。木々の中で気持ちも身体もリラックスしようと、林の入口に入った途端、白く小さな虫が塊りで襲ってきた。全速力で逃げた。余計な体力を消費してしまった。
一気に空腹感も襲ってきた。スマートフォンの充電が残り10%を切っていた。どこか電源のあるファミリーレストランやファーストフード店で、休憩がてら充電とは考えていた。頭がご飯で支配されそうになりながら先へ進む。
賃貸アパート前にて、柵に看板をうまく通してはめ込み、設置しているワンチャンを発見。宮代町と書いてあってくれと願い、上方へズラして、ガッツポーズ。【宮代犬】を写真に収め、元の位置に戻して、そそくさと立ち去った。
いぬの看板<特別編・その26>に続く
いぬの看板<特別編・その24>
(N暗K太・著『犬のかんヴぁん』 Voyage of my dog sign ~埼玉県東部地域編~より)
■犬の看板ブログ簡単考察
太田氏が運営する『いぬの看板ブログ』の考察を簡単におこないたい。
❶ほぼ一週間毎の更新
❷市区町村毎にカテゴライズ
❸写真は背景がなく看板のみ
❹おわりに
❶ほぼ一週間毎の更新
ブログ立ち上げ当初は、頻繁に犬看板の写真をアップしていたようだ。かなり入れ込んでいた期間を経て、現在は一週間毎の更新。長い時で10日程度か。コレクションする犬看板の枚数も関係していると思うが、ルーティン化されていることが窺える。小説の執筆活動に、コンセプチュアル書店・ブックマート川太郎や太田氏が企画・編集するインディーズ文芸ZINE 『ODD ZINE』の活動など、精力的に活動をする氏にとっては、現在の更新間隔が適当なのだろう。
❷市区町村毎にカテゴライズ
写真のカテゴリー分けは、市区町村毎で、至ってシンプル。文言やイラストの傾向を分類することも頭に浮かぶが、犬看板に市区町村名を添えるのみで、説明はない。この説明のなさが、このブログにナゾ感を生み出している。同じ市区町村で二枚以上の犬看板をアップする場合は、二枚目以降に『何匹目』と記載される。主役は犬なのだ。また、写真50枚ごとの節目で市区町村名なしの看板を入れてくるのはご存知だろうか。これは完全に太田氏の遊び心だ。
❸写真は背景がなく看板のみ
写真には風景が映り込まず看板の接写だ。余計なモノを映さずに、犬にフォーカスされるようになっている。太田氏の犬好きがわかる特徴といえるだろう。
❹おわりに
みんな『俺(私)の犬看板探訪記』を書いて勝手に太田氏へ送りつければ面白いのにと本気で思ったことがある。そのことを太田氏に話すと「全国から集まってきて、アーカイブできたらおもしろいよね」と言う。アリなんだなと思った。アイデアに意味を持たせてカタチにする。そして、それを面白がる。そんな瞬間にいつも興奮させられる。確かなこだわりは感じるのに、この間口の広さよ。なので僕も何の気兼ねもなく、探訪記を勝手に送り付けられるのだが。『いぬの看板ブログ』から展開されるアイデアのさらなる広がりを、今後も楽しみにしたい。
いぬの看板<特別編・その25>に続く
いぬの看板<特別編・その23>
(N暗K太・著『犬のかんヴぁん』 Voyage of my dog sign ~埼玉県東部地域編~より)
■蓮田市
伊奈ジョギングロードを走り抜け、ようやく蓮田市へ入った。
コンビニへ寄り、本日一回目の休憩をとった。この時点で結構足にきていた。子供に付き合える体力さえあれば、日頃の運動不足には微塵も後悔はないが、やはりキツイなと感じる。犬看板の旅はまだ序盤、ペース配分もこの旅を完遂するための重要な要素だと深く頷いた。
次の目的地、春日部市までの距離は10キロ程。なるべく逸れることをせず、春日部市方向にむかいながら犬看板を探すことに決めた。目星をつけた公園を抜け、木々に覆われた道幅の狭い私道で、電柱に括り付けられた犬看板を発見。【バケツとモップを持つ擬人化された蓮田犬】だ。つなぎ&長靴着用、ナイス看板だ。
犬看板ではないが、左端から木と同化ししつつある【春日部保健所管内狂犬病予防事業推進協議会】の看板も見つけたのでパシャリ。字面長っ!
いぬの看板<特別編・その24>に続く
いぬの看板<特別編・その22>
(N暗K太・著『犬のかんヴぁん』 Voyage of my dog sign ~埼玉県東部地域編~より)
■伊那町
農耕車に注意。見慣れぬ看板が目を引いた。
伊奈町役場へ向かう途中、車道の路肩をはしる農耕車を追い抜いた。側溝の蓋がゆるいのか、農耕車のタイヤが上を通る度に、カタカタと音を立てている。聞いているとこっちまで揺れてきそうなエンジン音の荒々しさと、本線車道の車に配慮しながらも自分のペースで歩む姿に、犬が農耕車を運転する犬看板があったらいいなと思った。犬種はセントバーナードがいいな。
鼻の奥にツンとくる酸っぽい臭いがした。辺りは梨の木畑が広がっていた。地面に梨が落ちて腐敗している。学校、公園、住宅街をまわる。【埼玉県狂犬病予防協会】の犬看板を見つけたが、これはさいたま市内でも良く見かける犬看板だ。
伊奈町オリジナルの犬看板に出会いたい。運も当然あるが、絶対数が少ない感じというか、無いところには無いと、過去の経験から学んでいる。見切りをつけることも大切だ。このあたりで踏ん切りをつけ、蓮田市へ向かおう。
Googleマップで最短のルートを確認。建物もなく田んぼの中にある細い道をひた走る。遠くに見えるのは、東北新幹線の線路だろう。景色でも楽しみながらゆっくり行こうと思っていると、筆字で書かれた看板が目に入ってきた。
ああぁここは【伊奈ジョギングロード】だったのかと。筆字の、はねが仰々しく、血を上らせる。
ふいに頭の中でハリウッドの某ボクシング映画のテーマ曲が流れかける「俺にとってはただの木曜日だ」その瞬間、白鳥が胴体よりも長い翼をしならせて旋回し、稲穂の中に降り立った。辺りをみると、毛づくろいをしている白鳥もいた。力を入れそうになったが、まだ先は長い。気持ちを落ち着かせた。
しばらく進むと、辺り一面田んぼの中で奇跡が起きた。完全に諦めていたところに突如現れた【伊奈町の犬看板】。
信じられなかった。看板は、いたずらでスプレーでもかけられたのだろうか。年月が経ち、赤く錆びてきている。ハッキリとは文字を確認することはできないが、赤錆部分からわずかにはみ出る文字は間違いなく 伊・奈・町 と読める。犬の顔には、いたずらされていない。多少なりとも後ろめたさを感じていたのだろうか。
この看板を見て、傷んでボロボロになった犬看板を復活させる行為が『NEO犬看グラフティ』と呼ばれ、賛否あると、地方紙の小さい記事が伝える様を想像した。
いぬの看板<特別編・その23>に続く
いぬの看板<特別編・その21>
(N暗K太・著『犬のかんヴぁん』 Voyage of my dog sign ~埼玉県東部地域編~より)
■白岡市
空は一面雲で覆われている。 連日三十度を超える日が続いていたが、この日は比較的気温が低く、時折ふく風も軽い。清涼さを感じる。探訪日和。JR宇都宮線のボックス席で揺られていると旅感アップ。
白岡駅に着いた。駅ホームから見える榧の木を横目に通り過ぎる。榧の木に括り付けられた白のプラカードには、樹齢100年以上と書いてある。そそくさと改札を出て、白岡市観光協会を目指した。
通り過ぎたスーパーは開店準備をしていた。【水と緑の里・白岡 白岡市観光協会】の看板に描かれている、特産品の梨を擬人化させたキャラが可愛い。
利用票に氏名・住所・連絡先を記入し、窓口の女性に返す。別の男性がブレーキやタイヤの空気を確認してくれていた。高ぶる気持ち。犬看板探訪で、毎回感じることは、一つ目の看板を見つけるまでの緊張、見つけた後の安堵だ。早めに一枚目を見つけられると気持ちが違う。
出発前にトイレを済ませ、窓口に戻ると、「準備してありますので」と声をかけられた。自転車を玄関前まで移動してくれていた。係の男性にお礼を言い、今日の【相棒(ママチャリ)】を写真におさめる。主題とは関係がないが、探訪記で旅感を出すために、今回はこういうものも撮っておこうと決めていた。
さて、出発だ。観光協会から一度北上し、白岡中学校を目指しながら最寄りの公園も探索する、ぐるりと一周するが犬看板は見当たらない。白岡中学校周辺の道端には、オレンジ色のキバナコスモスが生い茂っている。根本を見ると、一株で多くの花を咲かせていることが確認できる。どうせ白岡市へ戻ってくるので、帰路の途中か、これから向かう伊那町への途中で見つければ良いと思いつつも、まだ犬看板を一枚も見つけられていない現状に、気持ちは落ち着かない。
用水路と並行してはしる整備されたウォーキング&サイクリング・水と緑のふれあいロードを見つけ、ビビビっ!直感的にその道へ入る。しばらく進むとビンゴ!あるじゃないか犬看板。【イラストの違う看板が二つ】並んでいる。市制施行される前の、町バージョンだ。
白岡犬、ん〜愛おしく感じる。重圧から解放され、気分が上がってきた。さて、行きますか次。ほんの数分前まで焦りと不安で一杯だったのに、全身に自信がみなぎる。意気揚々と伊奈町方面へ、足取りも軽い。
前方にコンクリートの鳥居が見えてきた。石碑には【白岡 八幡神社】と刻まれている。車道にそびえる鳥居をくぐると、石造りのカエル像がみえた。せっかくだから参拝することにした。カエル像は、交通安全祈願をする石像だった。カエル像の下、石造りの台座には【無事かえる】と刻まれている。今日一日の交通安全と犬看板たちの出会いを、両手を合わせ祈願した。
神社近くの八幡公園で、前回、新潟県弥彦村で遭遇した犬看板と遭遇した。弥彦村の犬看板は色あせ、生気が抜けた印象だったが、【白岡市(旧白岡町)の看板】はカラフル、文言・マナーを守って楽しい散歩、そのままに楽しげで、禁止とか迷惑とか、強い言葉を使わない感じが自分好みだ。飼い主とワンチャンとの信頼関係を感じさせる色合いが素晴らしい。
<特別編・その22>に続く
いぬの看板<特別編・その20>
(N暗K太・著『犬のかんヴぁん』 Voyage of my dog sign ~埼玉県東部地域編~より)
■犬看板探訪の計画を練る夜
太田氏の初単行本『ののの』が2020年10月7日に刊行される。刊行に合わせ、太田氏から「同時多発的に企画を考えている」と聞いていた。その中の一つに『犬の看板写真展』の開催をしたいと。
それは楽しみだなぁと思いながら、そうだ、僕も新たな探訪記を書いて、その写真展開催のタイミングで、太田氏の運営する『犬の看板ブログ』に僕の探訪記がアップされれば、動きがあって賑やかになるのではないか。
そんな自尊心と勝手な想いから、太田氏が面白がってくれそうな探訪記を頑張って書こうと決めた。ブログアップは太田氏の判断による。まぁ載らなくても勝手に送りつけるつもり。それだけでオモシロソウだ、フフフ。
自身で動機付けをし、犬看板を探訪するのは今回で三度目だ。一度目は、福島県の犬看板を子供の遊戯施設をセットに車で。二度目は、弥彦線・越後線沿線の犬看板を妻の実家を目指しつつ途中下車しながら。
三度目はどうしようか。変化は加えたい。まず丸一日犬看板に全身全霊を捧げよう。移動手段はレンタサイクルを借りて動くのはどうか。やはり旅感は必要だ。アプリを使って移動の記録を残そう。拠点からなるべく多く市町村をまわれる駅を探す。
埼玉県白岡市にある白岡駅が良さそうだ。レンタサイクルはあるか、あるじゃん、観光協会に。貸出時間は、九時から十七時。ここ白岡市観光協会を拠点に巡ろう。地理を正確に把握するために、訪れる市町村を書き出す。
白岡市、伊奈町、蓮田市、春日部市、宮代町、杉戸町、幸手市、久喜市の8ヶ所。市町村間の移動は15分〜40分と幅がありそうだ。犬看板を探す時間も入れ、一ヶ所の所要時間は1時間と見積もっておけばいいか。前半の犬看板回収に時間がかかるようなら、後半の予定を削ってもヨシ。逆に時間が余るようなら、予定にない市町村へ足をのばしてみるのもアリだ。
<特別編・その21>に続く
いぬの看板<特別編・その19>
(N暗K太・著『犬のかんヴぁん』 Voyage of my dog sign ~埼玉県東部地域編~より)
【目次】
プロローグ・・・・・・・・・・・2
犬看板探訪の計画を練る夜・・・・4
白岡市・・・・・・・・・・・・・5
伊奈町・・・・・・・・・・・・・7
蓮田市・・・・・・・・・・・・・9
犬の看板ブログ簡単考察・・・・・10
春日部市・・・・・・・・・・・・12
宮代町・・・・・・・・・・・・・13
杉戸町・・・・・・・・・・・・・14
幸手市・・・・・・・・・・・・・15
五霞町・・・・・・・・・・・・・16
久喜市・・・・・・・・・・・・・17
エピローグ・・・・・・・・・・・18
ポケット旅行記・・・・・・・・・19
オリジナル犬看板・・・・・・・・20
■プロローグ
熱帯夜の表参道を歩く。人はまばらだ。煌びやかなショーウィンドウの灯りと裏路地の暗闇が点滅して映る。
逃げ場のない灼熱。息をしようと力むほど呼吸が苦しい。そんな状態も、自然と郷に従える、謎めいた高揚感が湧いている。何これ、歩いているだけで楽しいじゃないの。異国で(そうだなぁ、モロッコあたりかな)旅でもしているような感覚だ。今なら温いコーラだって美味しく飲めちゃう。
2020年8月某日、仕事帰りに、ろるらり展へ向かっていた。数ヶ月ぶりの個人的な外出だ。コロナで随分と外出を自粛していた。仕事はテレワークが始まり、週一回程度の出勤も、寄り道せず、自宅との往復にとどまっていた。友人と会う約束はするも、刻々と変化するコロナ感染者状況を鑑み、控える日々。夏の帰省も、妻と相談し、見送っていた。
会社は、社会情勢をモロに受け、相次ぐ閉店、人員整理、コスト削減。同僚の女性と(職種柄)我々は全て片付いてから、はい、ありがとうございましたって肩を叩かれるんでしょうね、と笑えない冗談。目の前に現れる過去経験したことのない切り捨て作業に、精神はヤケクソだった。
激動の4月〜6月、その余波が残っていた7月、今後の見通しが立たないことで新店準備の動きもなく、比較的落ち着きを取り戻してきた8月。そこでSNSで目にしたミスIDから非常に気になる存在となっていた、ろるらりさんのろるらり展開催。ギャラリーも会社から帰宅時の導線上にある。気付けば自然と足が向いていた。
高揚感に浸りながら、ギャラリーに向かう途中、横断歩道の前で、ロードバイクに乗った若者男性が一瞬で駆け抜けた。背中にはウーバーイーツの箱型バッグを背負っていた。人工的に吹いた風には、汗を含んだ強烈なケモノ臭さが、残り香のように漂っている。
軽い眩暈を起こす。いまの非日常はいつから始まったのだろうか。やはり緊急事態宣言からか。お店が臨時休業の貼り紙を出す、不要不急の外出を控えてくださいと伝える市町村防災行政無線、ひと気のない街、公園でマットを敷きバレエの練習をするレオタード姿の少女たち、トイレットペーパーやティッシュ、缶詰などの保存食の品薄状態、オリンピック延期後にも街中で見かけるTOKYO OLYMPIC 2020のポスター、学校の休校、公共の屋内・外施設、プールや公園の水遊び場が利用中止、病院の面会禁止、お店等の入店時にアルコール消毒と体温チェック、歩いているひと全員マスク姿。
それらの光景は、異様に映った。世界が一変したような気持ちにもなった。
女性の話し声が後ろから聞こえた。クレープを頬張りながら歩く女子高生二人組だ。顎まで下げているマスクの白色がやけに映えて見える。裏路地に入ると、途端に辺りが静かになった。先程すれ違ったロードバイクがマンションの前にとめてある。サドルにウーバーイーツの箱型バッグがゆらゆらとぶら下がっている。来た道を振り返る。街明かりが裏路地を照らしている。
光と影。表と裏。境界線は曖昧だ。高温の無風状態の中、真夏夜に溶けてしまいそうな感覚になりながら、今日のこの瞬間の心地よさだけが頼りだと、強く思った。
<特別編・その20>に続く