<特別編・その14>
(N暗K太・著/犬の看板 報告書 Voyage of my dog sigh <弥彦線・越後線編>より)
4.燕市
燕三条駅から二両編成の弥彦線に乗り吉田駅を目指す。電車の待ち人は20人程居たと思うが、僕が乗り込んだ車両には誰一人居らず貸切状態だった。単線だったので吉田駅とは反対方向の東三条駅方面へ向かう人たちだったのだろう。
背負っていたリュックサックを下ろすと気分も軽くなった。電車が動き出す。車窓から強烈な日が差し込むが次第に慣れると、偶然手に入れたプライベート空間に旅の高揚と相まって超絶な心地良さを感じた。天井に取り付けられた扇風機の羽の音が聞こえる。
燕市街を過ぎると田園風景が広がる。田園の中を窓を全開に開けた軽トラックが走っている。吉田駅に着けば、新潟行きの電車が来るのは約40分後だ。燕市の犬看板もゲットしたいが市より村の方がグッとくるよなぁと思う。
吉田駅から弥彦村までは徒歩10分程。弥彦村まで行って戻ってくるだけで限られた時間の半分を要す。それは予めわかっていたので、少しでも時短するために吉田駅に向かう車内から犬看板を探していた。それらしい看板を二枚ほど見つけたが電車が左にカーブして行き、弥彦村とは逆方向だということが駅に近づくにつれ判明する。車内で念入りに探索ルートを確認していたが線路の進行方向までは注意していなかった。改札を早足で駆け抜ける。全身のセンサーを開放する。民家を縫うように進む。期待を胸に町角を曲がる。犬看板が無いことを確認し、一瞬だが悲しい気持ちになりまた次の町角へと向かう。その繰り返しだ。
iPhoneで時間を確認すると10分程経っていた。背負っているリュックサックが密着している部分に汗がベッタリ張り付いているのが分かる。電車の時間が迫っていることを意識し気持ちが焦る。Googleマップ上で緑に表示される場所が空き地だったり、樹木が密集しているだけだったりすることがあるが今回は当たりだった。
公園だ。園内で電柱に括り付けられた犬看板を見つけた。燕市のワンチャンだ。ヨシャ!思わず声が出た。写真を見返すと看板がやや左寄りで、本当に焦っていたなと思うがその瞬間は必死だった。
まだ他に犬看板はないか一度公園の外に出て確認していると、園内を囲う柵に吉田町と書かれた犬看板を見つけた。ここは燕市のはずだが…探訪記を書く際にこの辺りについて調べると、過去に幾つかの町が合併をしていたことが分かった。
現在の地図には載ってなくレア度が高い、いつ無くなってもおかしくない看板達だ。市長選で、ワンちゃんと共存するクリーンで健全な街づくりを標榜した立候補が当選し、手始めに市内の犬看板の張り替えを一斉に命ずるかも知れない。
吉田町
園内の水飲み水栓の蛇口を捻り、顔を濡らし、水を口に含む。タオルを取り出し顔を拭う。顔を上げ目を細めた。日差しが強くなってきている。ギラギラと音がするかのようだ。
<特別編・その15>へ続く